乳房再建
鈴木康弘 恵佑会札幌病院副院長
矢島和宜 恵佑会札幌病院形成外科非常勤医師
乳房再建とはどんな治療?
乳房再建とはどんな治療?
乳房は乳腺という機能以外に、流線型の美しい形状そのものが「女性らしくみせる役割」をはたしています。乳がんの切除手術を行えば、程度の差はあれ、乳房の形は失われることになります。この形、「見た目の役わり」を外科手術によって元通りに近い状態に戻すことが乳房再建の目的になります。以前より、自家組織乳房再建術(お腹の脂肪や皮膚を用いて行う再建)は、健康保険診療になっていましたが、3年前から人工物乳房再建術(シリコンを用いた乳房再建)も保険診療の適用となりました。乳房再建という選択肢が増えたことにより、乳房の形がいびつになる可能性のある無理な温存手術をする必要がなくなり、きちんと安全にがんを切除して、なおかつ元通りに近い形を取り戻すことが可能になりました。
乳がん治療が終わったあとの次の人生のステップとして、「わたしの、普段通りの暮らしに心身ともに戻ること」、それが「乳房再建」治療のキーワードといっていいでしょう。
どんな人が受けられるの?
どんな人が受けられるの?
乳がんの治療と同時に乳房再建手術を開始する方法を1次再建、乳がんの治療がひと段落してから再建を開始する方法を2次再建といいます。1次再建ができる条件としては、StageⅡまでの方で、あまり進行がんではないことが条件になります。一方、2次再建の適応としては、がん治療および追加治療(化学療法や放射線治療など)が終わり、状態が落ち着いていて、再発や遠隔転移のない方が適応になります。がん治療から相当の時間が経っていても再建手術には全く支障はありません。また、一般的には、乳房の形の違いにより手術方法の適応が異なり、標準的な大きさで下垂のない形の場合には人工物による再建術が適しており、逆に大きな乳房や下垂のある乳房の場合には、自家組織による再建が適しています。
具体的な治療方法は?
具体的な治療方法は?
人工物を用いた乳房再建は、ティッシュエキスパンダー(写真参照)と呼ばれる風船を大胸筋の下に入れ、胸部の皮膚を伸ばし(図参照)、その後シリコンインプラント(写真参照)と呼ばれる人工乳房に入れ替える2段階の治療になります。インプラントによる再建手術は、1泊2日程度の入院期間で体の負担も少ない治療です。ただし、人工物(シリコン)は一生もつものではなく、10年〜20年で入れ替えが必要になることがあります。
自家組織(お腹の脂肪、皮膚)を用いた再建では、より自然な形、質感の再建を行うことが可能です。当院では、お腹の筋肉(腹直筋)を犠牲にしない方法(深下腹壁穿通枝皮弁法)で、より体の負担のない再建手術を行っています(図参照)。入院期間は約10日前後です。
人工物、自家組織のいずれの方法が向いているかを判断する際の指標としては、それぞれの患者さんの乳房形態や体格、患者さんの乳房再建に対する考え方、あるいはご自身のかかえている社会的背景(年齢、家族の状況、仕事、etc)など種々の要因を総合的に判断し、できるだけ希望にかなった選択が望ましいと考えられます。
人工物を用いた乳房再建術
ティッシュエキスパンダー
この中に生理食塩水を入れて胸部の皮膚を膨らませます。
シリコンインプラント
縦幅、横幅、厚さにはさまざまな種類があります。
大胸筋の下にティッシュエキスパンダーを挿入し、生理食塩水を注入して徐々に膨らませていきます。十分に胸部の皮膚がのびたらエキスパンダーをシリコンインプラント(人工乳房)に入れ替えます。
自家組織(お腹の脂肪、皮膚)を用いた再建
自家組織による乳房再建術(深下腹壁穿通枝皮弁法)。腹直筋や神経を残して移植手術を行うので、最も体に優しい治療方法といえます。
恵佑会札幌病院ならではの乳房再建への取り組み
恵佑会札幌病院ならではの乳房再建への取り組み
人工物(シリコン)を用いた乳房再建術はどこの施設でも受けられるわけではなく、乳腺外科・形成外科による関連学会から認定された施設で治療を受けることが可能で、当院はその使用要件基準を満たしています。当院では、手術の段階から全摘術適応の方にはできるだけ綺麗に治るように再建手術をお勧めし、質のよいチーム医療を実践しています。乳がんになってもできるだけ今まで通りの生活ができるように全力でサポートしてまいりますのでどうぞお気軽にご相談ください。
鈴木康弘 すずき やすひろ
北海道大学医学部卒業。道内各病院および米国ハーネマン大学での留学を経て2007年より恵佑会札幌病院呼吸器・乳腺外科勤務。2009年より副院長。日本外科学会専門医・指導医、日本呼吸器外科専門医、日本乳癌学会専門医。
矢島和宜 やじま かずよし
北海道大学医学部卒業。恵佑会札幌病院、Gent大学留学、がん研有明病院を経て、2015年より蘇春堂形成外科副院長。日本形成外科学会専門医、日本乳癌学会評議員、北大形成外科臨床講師、旭川医大客員准教授。