食道がん
細川正夫 社会医療法人恵佑会理事長(現社会医療法人恵佑会会長)
どんな病気?
どんな病気?
食道がんはのどから胃にいたる食道の粘膜に発生するがんです。がんの中でも悪性度が高く、かつては長期の生存が難しいといわれましたが、近年は診断、治療法、術後管理などの進歩によって、生存率が上昇しています。ただ、がんが進行するほど、治りにくくなるのも事実です。
早期には症状がほとんどありません。静かに進行していき、症状が現れた時にはかなり病状が進んでいます。一般にはのどがつかえたり、のどが詰まったりする感覚に始まり、進行すると食べ物が飲みにくくなる、声がかれる、咳が出る、やせるなど、多様な症状が見られるようになります。
日本では、女性と比べて男性が5〜6倍ほど多く、特に50歳以上の男性は注意が必要です。
原因は?
原因は?
食道がんは喫煙や飲酒が影響しているといわれています。男性に多いのも、これらの危険因子をもつ人が多いためです。特に中高年男性で、お酒にそれほど強くなく、飲むと顔が赤くなる人や、喫煙習慣のある人は注意してください。
また、逆流性食道炎(胃液が食道に逆流し、食道が炎症する病気)など食道の病気が長引くと、食道がんが発生する素地をつくるともいわれています。それ以外でも、極端に熱い飲み物を頻繁に摂取したり、辛い食べ物など刺激物の取り過ぎは避けたほうがいいでしょう。
診断方法は?
診断方法は?
早期の食道がんの多くは、内視鏡検査で発見されています。当院では内視鏡検査の際に食道の壁にヨードを塗布して診断しています。染色すると病変部は染まらないため、白い部分ががんであることが判定できます。
より正確な診断のために、CTやMRI、PET/CTでの画像検査などで、病巣の広がり具合や転移があるかどうかなどを調べます。内視鏡の先端に超音波の発信装置を付けた超音波内視鏡もあります。これは受けられる医療機関が限られますが、がんの深さや、食道のまわりのリンパ節に転移しているかどうかがより正確に把握できます。
治療法は?
治療法は?
治療の柱は4つあり、体への負担が少ない内視鏡を用いた治療、抗がん剤を使う化学療法、病巣に放射線を当てる放射線療法、そして外科手術(開胸、開腹)です。
どの治療法を選択するかは、がんの進行具合によって決められます。リンパ節に転移がなく、食道の粘膜内にとどまっている早期のがんでは、内視鏡による治療が第一の選択とされています。
それ以上進行したがんには、外科手術が一般的です。がんに侵された食道を切除すると同時に、食道がんは頸部、胸部、腹部のリンパ節へ広い範囲に転移することが多いため、この3つの領域のリンパ節を取り除きます(リンパ節郭清)。この切除によって食道がなくなってしまうため、胃や大腸によって代用食道をつくることになります。この手術を食道切除再建といい、食道がん外科手術の基本になります。
がんが進行すると、外科手術では治療後に再発や転移するケースがあります。そこで、手術前に化学療法で病巣を小さくして取り残しを防いだり、手術で取り残した可能性のあるがん細胞を、術後に放射線治療や化学療法で叩いたり、外科手術に化学療法や放射線による治療を組み合わせることも多くなっています。
食道がんは発生率はそれほど高くはありませんが、一度発症するとやっかいながんです。早期発見のためにも定期検査を受けられることをおすすめします。
食道がん手術件数全国1位の恵佑会での取り組みは
食道がん手術件数全国1位の恵佑会での取り組みは
当院の統計では、手術前の検査でがんがリンパ節に転移しているかどうかは60〜70%しかわからないので、原則として食道の周りのリンパ節をすべて取り除くようにしています。特に発声にかかわる反回神経の周囲のリンパ節を確実に切除できるかどうかは治療成績を左右しますので、私たちは胸腔鏡下手術の場合でも肋骨を5〜7センチ切開し、反回神経の周りのリンパ節はハサミで切り取っています。
食道がんは手術をする外科医だけでは治療は完結しません。治療にはいくつもの選択肢と組み合わせがあります。いずれの治療法も診断医(消化器内科医、放射線診断医)と治療医(外科医、放射線治療医、腫瘍内科医)のチーム診療を実践することが大切と考えています。
細川正夫 ほそかわ まさお
北海道大学医学部卒業。市立旭川病院外科、国立がんセンター病院(東京)外科レジデント、北海道大学病院第2外科(現、消化器外科Ⅱ)を経て、1981年、恵佑会札幌病院開設。2011年社会医療法人恵佑会理事長、2018年より恵佑会札幌病院会長に就任。