ロボットを用いた消化器がんの手術
北上英彦 恵佑会札幌病院 消化器外科部長
昨年から食道がん、胃がんに対してロボットを用いた手術を開始
昨年から食道がん、胃がんに対してロボットを用いた手術を開始
恵佑会札幌病院は、2012年に手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入し、前立腺がんを中心にロボットを用いた手術(ダヴィンチ手術)を行ってきました。昨年からは食道がん、胃がんについてもこの手術を開始し、着実に症例数を増やしています。現在は直腸がんにも対応するため、準備を進めているところです。昨年4月から肺がん、食道がん、胃がん、大腸がんなどに対するダヴィンチ手術が保険適用になりましたが、どの病院でもすぐに保険適用されるわけではなく、一定の要件を満たすことが必要になります。
例えば、食道がんでは食道がんのダヴィンチ手術を5例以上経験している医師が常勤している施設という要件が設けられています。同様に、胃がんは10例以上、直腸がんも10例以上とされています。この他にも要件はいろいろありますが、ダヴィンチ手術は、それを実施できる体制が整備された施設でなければ、保険は適用されません。
当院では胃がんは昨年の4月から、食道がんは昨年の7月から保険適用になっており、現在までに胃がんは34例、食道がんは27例の手術を行っています。
ロボットを用いた手術の特徴、メリット
ロボットを用いた手術の特徴、メリット
ダヴィンチ手術は、体の数力所を切開し、そこから内視鏡とロボットアームを挿入。内視鏡カメラからモニターに映し出された3D画像を見ながら、医師がロボットアームを操作して手術を行います。これまでも、内視鏡を用いた外科手術は行われてきましたが、ロボットを用いることによって、より高い精度を得られるのが一番のメリットです。
内視鏡やロボットアームの先姥には鉗子という機具がついており、これが人間の指の役割を果たしながら手術を行いますが、これまでは直線的な動きしかできませんでした。しかし、この鉗子に関節がついて、人の指と同じような動きがコントロールできるようになったのも、手術の精度が向上した要因です。加えて、人の手の震えを自動的に抑える機能があるため、ロボットアームの動きがより正確になり、米粒に字を書けるほどの繊細な動きも可能になっています。
内視鏡からの3D画像を見ていると、まるで患者さんの体の中に入って手術をしているような感覚になり、がんの切除に際してもより正確に行うことができるようになります。患者さんの体への負担については、今のところ手術時間が長くかかるため、軽減されているかどうかはわかりません。
また、出血量や手術後の合併症は、これまでの内視鏡外科手術とほぼ変わりませんが、手術の精度があがっているので、今後、症例数がもっと増えていけば、合併症が減ったり、がんの再発率が下がるという結果も期待できると思います。
恵佑会ならではの取り組み
恵佑会ならではの取り組み
ダヴィンチにも種類がありますが、当院にはXiという最新の機種が2台導入されています。北海道でこの機種が2台設置されている病院は当院が唯ーであり、 全国的に見ても数が少ないと思われます。
それは、最新のロボットを使ったダヴィンチ手術を同じ時間帯に、並列して行うことができることを意味します。例えば、泌尿器の手術を行いながら、消化器の手術もできるのです。当院ではこれまで泌尿器の分野でダヴィンチ手術 を豊富に行ってきましたので、経験を積んだスタッフが揃っています。
彼らは医師に対してしっかりフォロー、アシストすることができ、チームとして非常にうまく機能しています。
昨年7月から、当院では食道がんのダヴィンチ手術を27例行いました。この数は全国でもトップクラスの症例数で、ほぼ週に1回は手術を行っていることになります。
今年はもっと数が増えていくでしょう。食道がんは治りにくいうえに合併症も多いのが特徴です。
今後はダヴィンチ手術によって少しでも合併症を減らしていきたいですし、現在までのところ大きな合併症は起きていません。
道内で食道がんが保険適用になっている施設は当院のみで、胃がんも数力所あるだけです。
教育施設としていろいろな医療関係者に見学していただいており、ダヴィンチ手術が安全に普及していくことに貢献できればと考えています。
北上英彦 きたがみ ひでひこ
1992年、北海道大学医学部卒業。同大医学部第2外科などを経て、2004年、ジュネーブ大学消化器外科に留学。17年5月より恵佑会札幌病院外科部長を務める。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医。北海道大学病院客員臨床講師。