vol.22 ちょっといい話:恵佑会札幌病院に美容室がある理由
恵佑会だより 2017年5月号 vol.22
川島 有美子 |
恵佑会札幌病院は、開院以来、がんの終末期医療も重視しています。ある回診の時、末期の女性患者さんが「女性はいつも美しく清潔でいたいのです」とお話しされていました。当時、理容室はありましたが、美容に関しては看護師が介助する程度でした。
その患者さんの言葉がきっかけで、緩和病棟の方々に普段の生活の延長として容姿を綺麗にするサービスを提供する「美容支援プロジェクト」を発足し、2012年の病棟改築の際に、誰でも利用できる美容室をつくることになりました。入院中であることを忘れてしまうようなインテリアとBGMが流れる居心地の良い空間になっています。美容師の千代啓介店長は、パリジェンヌを対象に修行してきた、女性の気持ちがよくわかる方です。
入院患者さんは、さまざまな不安を抱えながら、がん治療を受け、病院での生活を送っています。普段、ひと一倍容姿に気を配っている方も、日常とは大きく違う生活や治療に伴う倦怠感などから、自分で思うように髪を整えることができなくなり、気持ちが沈んでしまうことがあります。
ある手術後の患者さんは、身体がつらく、容姿も自分では整えられない状態でした。「美容室に行ってみませんか?」と声をかけると、患者さんの表情がみるみる明るくなって「行ってみたい」と答えました。美容室に向かった患者さんの表情は明るく希望に満ちていて、「髪を整える」ことが患者さんの自信につながり、外へ気持ちを向かわせることを実感しました。
大きな手術を受けた患者さんや終末期の患者さんには、状態によって病室まで出向いて行うこともあります。女性ばかりではなく、男性も髪を整え清潔にしたいという気持ちは変わりませんので、病状により医療の一部として考え、看護管理者の判断で一部の方には無料で提供しております。
『bon déclic』という店名は、「良いきっかけ」という意味です。患者さんにとっても、私たちにとっても、ふさわしい言葉だと思います。